価値への配慮|Quality Identification
医療の品質を評価するに当たっては,医療に関わる様々な立場の方々の価値を考慮した上で,受け手である患者・市民の価値を中心においた医療,すなわち「患者・市民とともに生きる医療」のあり方を基にした枠組みの設定が重要です.
医療には患者のみならず,医療専門職,保険者,行政・立法の関係者,医療関連産業など様々な立場の方々がかかわっており,誰の,どのような立場の価値を反映したものなのか,また,可能な限り 多くの立場の価値を反映させることができているか,を十分に意識して,評価指標・評価手法を検討する必要があります.
こうした関係者の価値に対して十分に配慮することができれば,各領域において医療の質の向上を継続的に行っていく原動力となることが期待できます.反対に,価値に対する配慮が不足していれば, 科学的に信頼性の高い評価枠組みを用いていたとしても,関係者からの協力が得られず,質の向上につなげることが困難になりかねません.医療の質の向上を考えるとき,価値への配慮は欠かすことができない事項であるといえます.
なお,価値に配慮するためには,価値そのものだけでなく,価値を変化させる要因についても十分に考慮する必要があります.例えば,短期的にみて患者のアウトカムを改善させる医療が長期的には患者の満足度を低下させてしまう,といった経時的に価値そのものが変化してしまうケースや,宗教や社会の慣習といった社会状況の違い,景気の変動や高齢化といった社会状況の変化が価値に影響を及ぼすケースも考えられます.
このような点に配慮しながら品質評価の枠組みを設定していくため,医療品質評価学講座では,文献のシステマティックレビューや定性的・定量的な社会調査を用いて,患者や医療専門職など多様なアクターの価値の多様性や価値の変化を明らかにする研究を行っています. さらに,デルファイ法などの合意形成手法を用いて,多様な視点を生かしながら医療水準を評価する 枠組みを設定するための研究を行っています.